【羽生】何がいいのか分からなかったオリンピックで不覚にも涙した話【宇野】
カキンッ!!という音と共にボールが空高く飛んだ。
店員のおばちゃんも作業の手を止めて、どれどれとホールにやって来る。
店員「おぉおおーやった!!」
サラリーマン「あぁーー走れ走れ」
背広姿の男たちや店員もみんな一様にポツンと置かれた
少し古めの薄型ディスプレイを眺めている。
会社帰りの飯屋で何度もこの様な光景をみてきた。
時にはサッカー、時にはスキー。
そのたびに頬に手を当て、ため息をつきながら、
何が面白いんだろう〜〜
あんなに騒いでどうしたんだろう〜〜〜
そうつぶやいていた時期が僕にもあった。
変な話、オリンピックとか、サッカーとか野球とか
何が面白いのか全然分からなかった。
自分がやる時は、どのスポーツもおもしろい。
他人のスポーツを観て騒ぐ。というのは、
まるっきり感覚が分からなかった。
「自分がプレイしてもないのに何が楽しいんだろう」
知らない人のカラオケソングを聴かされている様な、
そんな感覚になっていた。
歌はうまい。だがしかし、
その歌を延々と聴いていても特に面白くはない。
みたいな。そんな気持ちだった。
ついこの間までは。
そんな僕が今回のオリンピックを
食い入る様に見つめてしまった。
魔王の様な気迫と、きらびやかでいて、
陰陽師を感じさせる様な独特な衣装。
ドォンッ!という低音のBGMと響き渡る手拍子。
羽生結弦くんから、凛々しさと繊細さ、
あらゆることばでは表現できない美しさが現れていた。
宇野昌磨に至っても、ドキドキが止まらなかった。
4年も練習に練習を重ねて、最初に大きく失敗した。
その後、彼はどのような気持ちで滑っているのか。
滑っている間、微塵も曇りの無い、
「がんばれ」「どうかうまくいきますように」
そんな事をずっとずっと心の中で何度も何度もつぶやいていた。
あぁ、そうか、
これか、
この、「相手を心の底から応援する」という気持ち。
それも、日本全国のみんなの心が一つになって応援する。
気持ちがひとつに集まる。どうか、願いよ届け。
成功してくれ。がんばれ。
こんなに日本中の人が心を動かされ、応援する。
そんな感動的なこと、1年に何度もある訳ではない。
そして、相手の一生を全てかけたその瞬間を見届ける事ができる。
歴史を刻むその瞬間が見られる。
身近にいる大事な人がメダルを取った様な、そんな気持ちになった。
スポーツを応援している人やオリンピックを楽しんでいる人。
もちろん、中にはただミーハー的な感じで騒ぎたい。
便乗したい。学生時代に自分が叶えられなかった夢を叶えて欲しい。
あの頃を思い出したい。
とか色んな理由で観客として楽しむ人もいるのだろうけど、
純粋に人を応援する気持ちを送ることができる。
それこそが、オリンピックの魅力だと感じた。
受け取るよりも、与えた人生の方がずっと豊かだと思う。
その"与える"をみんなで団結してできる貴重な4年に1度のタイミング。
そうだと考えたら、全てが尊く思えた。
羽生結弦選手、
宇野昌磨選手、
金メダル、銀メダル、本当に本当におめでとう。
素晴らしいものが観られて、
オリンピック嫌いだった僕は、
不覚にも涙した。